「よし、明日は決戦だ。お前もさっさと寝ろよ、シモン」
カミナがぐりぐりっとシモンの頭を撫でる。シモンは、うん、と一つ頷いた。少しだけ歯切れ悪く。その様子にカミナが首を傾けたが、シモンが「なんでもないよ、おやすみ」と言うと、カミナはあっさりとそれを信じる様に頷き、そして背を向けた。カミナの姿が遠離る。それを見届ける事無く、シモンは蹲った。耳を塞ぎ目を閉じて、何も取り入れたくないという様に蹲った。
あの光景が頭から離れない。カミナとヨーコが抱き合っていて、そしてキスをしていて。キスだとか、抱き合うだとか、そういうのは別にどうでもいい、問題はそれをしていたのが、カミナとヨーコの二人であったという事だ。
シモンにとっては、カミナもヨーコも大事な存在だった。ヨーコに至っては、旅をしていく最中に恋心の様なものが芽生えていたかも知れない。けれどどちらも掛け替えの無い二人で、失ってはいけない二人で、守り抜きたい二人で。けれどこの気持ちは何なのかと、シモンは胸を押さえた、息が苦しい、くるしい。あの光景をみた瞬間に、シモンの頭に痛みが走った。まるで固い何かで殴られた様な痛み。目の前が真っ白になって、そして、その場から逃げた。見て、いられなかった。吐きそうになる。実際に口から何かを吐き出した訳では無いが、それでも喉の奥が気持ち悪くて、口を開くと涎が垂れてきた。それを拭って、そうして冷えない頭で考える。カミナも大事、ヨーコも大事。けれどふと引っかかる、ヨーコに対して、妙な気分が沸く。怒りでも無い、哀しみでも無い、むず痒い感情。出来る事ならカミナからヨーコを引き剥がしてしまいたかった。ヨーコを突き飛ばしても構わないと思った。そこまで考えて、ふとシモンは気付く。カミナから、ヨーコを、引き剥がすのか。ヨーコからカミナを引き剥がすでも無く、二人を引き剥がすでも無く。どうしてそういう流れになるのだろうとシモンはうんと考えて、それでも何も思いつかない。先程カミナと話しても、ちっとも何も浮かばなかった。これは、なんだ。この気持ちは、何だ、気持ち悪い、ぐるぐる、廻る、めぐる、カミナ、ヨーコ、二人、大事な二人、けれどカミナからヨーコを引き離してしまいたくてそしてヨーコに言いたい、カミナは、
……カミナは?カミナは、何?何と、言おうと、した?
シモンの脳内がぐるぐる廻る、けれどそれはドリルの様な美しい旋回では無く、止まり掛ける独楽の様なぐらついた回転。おかしいおかしい自分はおかしい何だこれは何なのだ止まれ止まれ止まれ少しだけ冷えろ頭を冷やせ冷静に冷静に明日は決戦だこのままじゃ戦えないお願いお願いだから、止まって。
「シモン!」
そこまで考えて、快活な声が響いた。蹲っていたシモンが顔を上げると、そこにはカミナが立っていた。…あれ、寝たんじゃなかったのか、とかそんな疑問がシモンの脳裏を巡ったがそれを尋ねる暇は無かった。カミナが、がしりとシモンの頭を掴んで顔を近付ける。うわ、とシモンが僅かに声を上げたがそんなのはお構いなしにカミナは口を開いた。
「何を悩んでるんだか知らねぇが、つらいなら吐き出しちまえ。俺に言えないならそれでもいいし、誰にも言えないなら仕方ない。けどな、言えないなら言えないなりに俺にぶつけろ。汚い悩みでもどんな感情でもいい、俺にぶつけろ。俺はそれをきちんと受け止めてやるから」
「……アニキ…」
「お前のアニキは誰だ?この俺、カミナ様だろうが!俺はお前の信頼に足りない男か?!」
「……ちが、ちがう」
「だったら!俺に全部ぶつけてこい!拳でもいい、言葉でもいい、お前を鈍らせるものを全部俺にぶつけろ!俺はそれを全部受け止めて、そんできちんと取り払ってやる。お前は、俺の大事な弟分だ」
シモンの心に何かが落ちてくる、冷たい、白いもの。オーバーヒートしそうな頭をゆっくりと優しく冷まし、胸の奥から別の炎を呼び起こす。どっぷりとはまっていた泥沼から引き起こされる様な感覚。カミナが妙に輝いて見えた。シモンにとってすればカミナはいつでも輝いていたが、それが今は顕著だ。シモンは薄く口を開いた、言おうか、言うまいか、迷う。何を言おうとしているのかシモン自身も解ってない。けれど何かぶつけたいものがある、拳でもいいけれど、これは言葉でぶつけたい。何よりも強い言葉で、カミナにぶつけたい。何か解らないけれど、それでも後悔しない為にカミナにぶつけようとしている。逡巡するシモンの背をカミナが叩いた。それが妙に強くて大きくて暖かくて、シモンはちいさく、笑った。
「…おれ、…俺、アニキが好きだよ!」
「あぁ?何だそんな事か。…知ってたよ」
カミナが笑う。何を今更、とばかりに笑う。快活、明快、明朗。どんな言葉も足りないぐらいに強く明るく笑う。自分はこの笑顔が好きで、憧れていて、それで、だから。
だからついていこうと思った。暗い土の底から、天を目指すこの人が、自分の中に光を差した様で。そこまで本人に言えばきっと本人は煙たがるかも知れない、けれどきっと笑ってくれるだろう。それを知っているから、きっとまたついていく。自分はこの人の為に生きているのだと思い上がるぐらいに、この人はまぶしい。
「よし。解った。お前の気持ちはよーく解った。仕方ねぇな、今日は一緒に寝てやるよ」
「え、い、いいよ別にっ!そこまでしなくても!」
「あぁン?何遠慮してんだよ、いいからちょっとほら、スペース空けろ」
「ちょ、ラガンで寝るの?!」
「当たり前だろうが!」

笑い声が響く。眩しい笑い声、強い笑い声、きっと、これから先何処までも信じ続ける笑い声。
アニキ、大好きだよ。










一万年と二千年前から愛してる






















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