彼は動かない。動くのは己のみで、結局彼の欲を満たす為だけの行為のみなのだが、それでも彼は動かない。さも当然の様にそこに横になって、自分を見つめる。
「あ、ハ…ッ、」
くるしい。彼は己を愛している訳が無くて(無論だ、彼が愛でるのは美しいもの。)彼は己を慈しんでいる訳が無くて(無論だ、己は醜く弱きもの。)それでも嘲笑する様なその表情が舐め回す様に自分を覗く。くるしい、少し疲れてきた。先からこればかりだ。体力を減らすのは自分ばかり。くるしい、くるしい、つらい。
ヴィラルが僅かに動きを休めると、何をしているとばかりにシトマンドラが腰を突き上げた。その動きにびくりとヴィラルが肩を竦めて震える。ヴィラルの後孔には、シトマンドラの男根がしっかりと銜え込まれて、何度目か解らぬその行為に慣れたのか逃がすまいと固く締め付けている様だった。ヴィラルの目には僅かに涙が滲んで(生理的なものだとヴィラルは信じ込む。)、口には涎が滲んだ。もう、歯を食いしばる余裕さえ無い。先程の突き上げに、ヴィラルの性器が小さく震え、僅かながらに射精した。精液の量は何処までも少ない。獣人と言えど、何度も何度も吸い取る様に責められ(責められる様に動いて、)ヴィラルの精気は悉く底を尽きていた。
「どうしたヴィラル、まだ私は満足していないぞ」
底辺へ叩き付ける様な静かな声音にヴィラルが、閉じかけていた目を開く。シトマンドラは嘲笑して、嘲笑して、ぱんっ、とヴィラルの尻を叩いた。びくり、ヴィラルがまた震える。こうやって尻を叩かれるのも何度目か、ヴィラルの尻は赤く腫れ上がっていた。それでも音を上げる事は許されず、ヴィラルはもう一度腰を揺らした。もう体力も精気も気力も無い。それでも一心に腰を揺らす、ヴィラルに拒否権は無いのだ。
(そうだ、私には、拒否権は、)
「…解っているなヴィラル。チミルフが死に、アディーネが死に、だというのに図々しくも生き残ったお前を拾ったのは誰か」
「、…ッんん、…はい…ッ」
(拒否権は、無いのだ。)
解っているのならいい、と彼が頷きまた寝台へと身を沈める。もう動く積もりは無いらしい。さっさと終わらせたい様にも見えるし、自分が一所懸命に揺らぐのを見て楽しんでいる節もある。己と彼は元々相性が悪い気がする、と白く霞掛かった頭の片隅で考えた。確かに敬愛は、尊敬はしているけれどそれ以上で、失ってしまったあの二人の様に、尊敬以上の、尊敬以外の思いは無い(例えば憧れ、例えば自惚れ、例えば愛、)。
それでもこうやって彼の寝台へ誘われるまま(命じられるまま)向かい、彼の欲望を満たし鎮める為の道具として使われる。何と愚か、何と矮小。けれどそれでも、それでも、と己は目を伏せる。

(あの男ともう一度相対するには、これ以外に道は無いのだ。)










狗は鳴く、鳥は飛ぶ、猿は喚く。






















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送