「やぁ、ジェレミア」
涼やかな男の声が響いた。ジェレミアはゆったりと目を開ける。ちかりと光が目を攻撃して、見ていられなくなった。だがそれにもすぐに慣れる。そうして自分を見下ろす影がある事に気付いた。見下ろす?自分はその影よりも下の位置にあるのか。そう考えて漸く体の感覚が戻ってきた。後頭部に、背に、尻に、踵にある、冷たい感覚。床?それとも、何か他の。自分の頭に触れようと体を動かした。正確には動かそうとした。けれどジェレミアの腕は動かなかった。まるで押さえつけられている様に右手が動かない。どうしたというのか、右手を見下ろそうとして首も動かない事に気付いた。顎をゆるりとそちらへ動かせば、冷たい何かに当たる。そしてそれが邪魔をして、首より下が見えない。冷たい、これは何だ。
ああ、自分は拘束されているのか。ジェレミアは唐突にその事に気付いた。頭には靄が掛かった様な感覚、どうにも思考処理が遅い。少しずつその靄が晴れていく様な気がする。けれどぼんやりとした感覚は消えない。右手を動かそうとする。動かない。左手を動かそうと、出来ない。…できない?どうして?
「君の綺麗な体も、すっかりボロボロになってしまったね」
また涼やかな声が落ちてきた。この声は誰のものだろう。聞いた事が、ある、気がする。脳裏に深く、刻んだ声の様な。何かが胸元に触れた。布の様な感触のそれはどうやら手袋をした指らしいが、ではこの指は誰のものだ、先の声の主か。そしてそれは鎖骨へ昇り首に触れようとして、その首を押さえる拘束具に触れた、らしい。首には手の感覚が落ちてこない。そのすぐ後に顎へ指が触れて、ジェレミアは僅かに体を震わせる。この指は。
指は顎や頬骨をなぞると、再び鎖骨へ降りていった、そして、左の肩へと滑る。そこで突然、その手の感覚が消えた。だが衣擦れの音はする。指は肩を、腕を、這っている筈なのに、その感覚が自分にちっとも伝わらない。…腕の感覚が、無い。
「殿下、そろそろ…」
先の涼やかな声とは別の声が響いた。野太い男の声。その声に、先の声は、あぁ、と頷いた。衣擦れの音が消える。どうやら指が離れていったらしい。しかしその感覚さえジェレミアには伝わらない。そうしていると、ぷつりと右腕に鋭利な痛みが響いた。何かが刺さった。それからすぐに、また、あの靄が頭の中へ流れ込んできた。折角はっきりとした脳内も、ぼんやりとした霧が満ちていく。同時に、眠気にも似た疲労感がどっと押し寄せて、ジェレミアは、目を閉じかけた。もう、目を開けていられない。もう、なにも、考えていられない。シュナイゼルがこちらを見つめている。
「早く目覚めて、私のもとへおいで、ジェレミア」
イエス、ユアハイネス。









そして涼やかな声が響く。






















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