(俺は何をしてるんだ。)
そんな事を考える政宗の体の下で利家がその身を震わせた。しっとりと汗ばんだ背が、心地良い体温で、政宗はその背に額を寄せた。それでも利家の震えは止まらない。まるで獣の様に蹲って、そしてその身一つで、政宗を受け入れていた。
随分具合が、良いと思った。そう思った瞬間に政宗は自分を嫌悪した。同時に、何か別のものを嫌悪していた。それは愛おしい筈の利家に対してかも知れないし、或いは別の何かに対してかも知れなかった。ただ、言い様の無いモヤモヤとした、黒い霧の様なものが胸の中にわだかまっている事だけが、唯一理解出来る事だった。
「、あ」
(あいつの言う事は本当だったんだな…。)
利家が、僅かに甲高い声で鳴いた。少し前に無理矢理、政宗自身を突っ込んだ時は苦痛めいた声しか漏らさなくて、あの明智光秀の言う事は嘘なんじゃないかと思っていた。けれど、直ぐにその考えは消えた。少し動いただけで、利家の後孔は政宗をいともあっさりと受け入れてしまったのだ。政宗はその信じ難い事実に眉根を寄せて、そして、利家を無理矢理に犯した。
少しずつ、少しずつ、利家は女の様な嬌声を上げる。元々声が低くない彼だが、こんな声は普通出さない。そしてこの、女の様な、反応は確かに。
(…魔王に仕込まれてるってか)
嫌悪した。何もかもを嫌悪した。黒いモヤモヤは消えない。嫌悪して嫌悪して嫌悪して、目の前が真っ暗になりそうだった。



「政宗、」
獣の様に利家を犯した直後、利家は気絶する様に眠ってしまった。政宗はその体に軽く蒲団を掛けてやり、自分は文机に向かった。向かった所で何をするでも無く、肘を立ててそれに顎を乗せて、ただ、ぼんやりとしていた。頭を冷やそうと、思った。そうしていると、目を覚ましたらしい利家から声を掛けられた。振り向くのも、億劫。
「政宗、なにか、あったのか」
利家の声はすっかり枯れていた。それもそうか、と政宗は、変な風にそう考えた。振り向く事は出来ない。利家が身動ぐ音だけが、耳に届く。そして、声が届く。
「まさむね、」
縋る様な声で、名を呼ぶ。振り向いて、と、その声が言っていた。けれど、振り向く事を、政宗の心が、拒否していた。そして、漸く口を開いた。
「もう、俺の事嫌いになっただろ」
「え、」
振り向くなと心が拒否していた筈なのに、ただその一言を告げただけで、体が軽くなった。笑顔さえ浮かべて、利家の方を向いてやる。利家は、目を丸くしていた。体に蒲団を巻き付けて座り込んだ姿で。
「ていうか、別に、…俺だって、お前の事好きな訳じゃねぇから」
(うそつき。)
「まぁちょっと可愛いから?少し遊んでやっただけ。…今まで手ェ出さなかったのも、その延長」
(うそつきうそつきうそつき。)
「お前、俺が本気だとでも思ってたのか?Ha!、…めでてェ頭だな」
(うそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつき。)
「お前相手にするぐらいなら、小十郎と遊んでた方がマシだよ」
(うそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつき!)
「ま、そういう訳だ。…じゃ、そんだけ。今日でおしまいだな」
あぁどうして、こんなにも、すらすらと言葉が出てくるのか。政宗はそんな事を考えながら、利家から視線を外した。これでおしまい。
パン。
おしまいと思って、いた。そんな政宗の頬を叩いたのは利家で、武士である利家の平手は、痛かった。政宗は叩かれて顔を反らしたまま、そのまま、ぼんやりと畳を見ていた。叩かれた頬が熱い、顔が熱い、頭が熱い、心が熱い、痛い。
「うそつき」
利家は泣いていた。元々よく泣く様な性格だが、怒った顔で泣いていた。顔を戻した政宗が、そんな利家の顔を見たのは初めてだった。
「ホントに遊びだったら、政宗は、もっと、もっと笑ってる筈だろう」
利家は、泣いていた。
政宗も、泣いていた。
「うそつきな政宗なんか、嫌いだ」


(ごめんなさい。)









蹂躙する過去の神





















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